私は2014年から広告代理店でデザイナーとして働き始めました。最初の数年は雑誌の誌面制作やチラシ・ポスターといった印刷物を担当し、それと並行してバナー広告やWeb用のビジュアル制作にも携わるようになりました。3年目以降はチームのマネジメントも担当するようになり、複数のジャンルのデザイナーと一緒に仕事をする中で、ジャンルごとの「専門性の違い」を肌で感じてきました。
この記事では、私の経験をもとにデザインの主なジャンルの特徴と役割、そして各ジャンルで期待できる効果を解説します。
デザインのジャンルはなぜ分かれているのか
「デザイナー」という職業は一括りに語られがちですが、実際には専門とするジャンルによって求められるスキル・知識・思考プロセスが大きく異なります。
料理人に例えると分かりやすいかもしれません。「料理人」という括りの中に、フレンチ・寿司・パティシエ・ラーメン職人がいるように、「デザイナー」の中にもグラフィックデザイナー・Webデザイナー・エディトリアルデザイナー・UIデザイナーといった専門職があります。
もちろん複数のジャンルを兼ねているデザイナーも多くいます。ただし「何でもできる」と「何かが突出して得意」は別の話です。依頼の内容とデザイナーの専門性が合っていないと、クオリティに大きな差が出ることがあります。
代理店時代、様々なジャンルのデザイナーと一緒に仕事をしてきた経験から、この「専門性のマッチング」が外注の成功を大きく左右すると感じています。
グラフィックデザイン
特徴と役割
グラフィックデザインは、チラシ・ポスター・名刺・看板・パッケージ・ロゴなど、主に「静止画のビジュアルコミュニケーション」を担うジャンルです。印刷物に関する幅広い制作物を扱い、デザインの中で守備範囲が広いジャンルといえます。
グラフィックデザイナーの仕事は、「情報を視覚的に整理して、正確かつ魅力的に伝える」ことが核心です。配色・タイポグラフィ・レイアウト・写真の選定など、複数の要素を組み合わせながら、受け手に意図したメッセージを届けます。
期待できる効果
- チラシ・ポスターの反応率向上(手に取ってもらえる・読んでもらえる確率が上がる)
- ロゴ・名刺によるブランドの第一印象の向上
- 販促物全体のクオリティアップによる信頼感の醸成
現場で感じたこと
同じ内容・同じ予算で制作したチラシでも、デザインの差によって反応率が大きく変わったりなどがありました。「何を一番伝えたいか」の優先順位と、それを視覚的に表現する技術の両方が揃ったとき、デザインは本当に成果に直結するものだと感じました。
またWebを専門にしているデザイナーだと、印刷物制作における色の設定やリンク設定・文字のアウトライン化などの必要な知識がないがために印刷所に入稿する際、お客様と印刷所が困惑するケースがたくさんありました。
エディトリアルデザイン
特徴と役割
エディトリアルデザインは、雑誌・書籍・カタログ・社内報・パンフレットなど、複数ページにわたるコンテンツの誌面設計を担うジャンルです。「エディトリアル(editorial)」は「編集」を意味し、文章・写真・イラストを組み合わせてページ全体の流れを設計することが主な仕事です。
グラフィックデザインが「1枚の面で完結する」のに対し、エディトリアルデザインは「複数ページを通じて読者をどう誘導するか」という時間軸・文脈の設計が求められます。見開きのレイアウト・ページをまたいだ視線の流れ・全体のトーンの統一といった、ページ数が増えるほど難しくなる設計が専門領域です。
期待できる効果
- 雑誌・冊子のブランドイメージの形成
- 情報量が多い制作物でも「読みやすい・伝わる」構成の実現
- 長期間手元に残る冊子としてのブランド接触頻度の向上
現場で感じたこと
代理店時代、雑誌の誌面制作に携わっていた頃、「1ページのデザイン」と「40ページの雑誌全体の設計」は全く別の作業だと痛感しました。
各ページが単体で美しくても、通して読んだときに「流れがおかしい」「テンポが合わない」と感じる誌面は、読者の離脱を生みやすいです。エディトリアルデザイナーが優れているのは、この「全体を通したリズム」を設計できる点にあります。1枚のバナーを得意とするグラフィックデザイナーに冊子を依頼すると、ページ単体は綺麗でも全体の流れが読みにくくなることがあります。
特に紙面レイアウトには箇所によって役割があったり、日本語独自の組み方などがあり、表紙に関してもデザインにおいて実倍率が変動したりなどが実際にありました。
Webデザイン
特徴と役割
Webデザインは、WebサイトやLP(ランディングページ)などの画面上で表示されるコンテンツのデザインを担うジャンルです。印刷物と大きく異なるのは「インタラクション(ユーザーの操作への反応)」「レスポンシブ対応(スマートフォン・PCなど様々な画面サイズへの対応)」「読み込み速度」といった、画面表示ならではの制約と設計が必要な点です。
また、Webデザインはデザインデータを制作するだけでなく、HTML・CSSによるコーディング(実装)まで担うデザイナーも多く、「デザインと実装の境界線」がジャンルの中でも多様です。
期待できる効果
- Webサイトのコンバージョン率(申し込み・問い合わせ)の向上
- サイト訪問者の滞在時間・回遊率の改善
- スマートフォンでの表示品質の向上
- 検索エンジンからの評価向上(表示速度・UXの改善を通じて)
現場で感じたこと
代理店でバナー広告の制作に携わるようになった頃、「印刷物とWebのデザインは同じ感覚では作れない」と感じるようになりました。
特に色に関しては発色の得意不得意の差が大きく、知識がないとコントロールが難しい範囲でもあります。Webデザインは印刷物のデザインとは異なる専門知識が必要であり、両方を高いレベルで担えるデザイナーは思ったより少ないと感じています。
UIデザイン
特徴と役割
UIデザイン(User Interface Design)は、スマートフォンアプリやWebサービスの画面・操作インターフェースのデザインを担うジャンルです。「ユーザーが迷わず・ストレスなく操作できる画面」を設計することが最大の目的です。
Webデザインと混同されることが多いですが、UIデザインはより「操作性・使いやすさ」に特化しています。ボタンの配置・フォームの設計・エラー表示の方法・タップしやすいサイズ感など、見た目の美しさよりも「使いやすさの設計」が中心です。
また、UIデザインはUX(User Experience=ユーザー体験)の設計と密接に関わっており、デザインの前段階としてユーザーの行動を分析・設計する「UXデザイン」と組み合わせて語られることが多いです。
期待できる効果
- アプリ・サービスの離脱率低下・継続率向上
- 操作の迷いによるサポート問い合わせの減少
- ユーザー満足度・口コミ評価の向上
- 機能の利用率向上(使いやすい導線設計による)
現場で感じたこと
代理店時代、グラフィックデザインやエディトリアルデザインを中心に経験してきた私にとって、UIデザインは最も「感覚が異なる」ジャンルでした。
グラフィックデザインでは「見た目の美しさ」や「情報の伝わりやすさ」を重視しますが、UIデザインでは「操作の流れ」「ユーザーが次に何をしたいかの予測」という、より行動設計に近い視点が求められます。Webデザインやグラフィックデザインの経験が豊富なデザイナーに、アプリのUI設計を依頼したところ「見た目はきれいだが操作しにくい」という結果になったケースを見たことがあります。UIデザインはグラフィックデザインとは異なる専門訓練が必要なジャンルです。
ジャンルを越えた失敗談|餅は餅屋
各ジャンルの説明の中でも触れてきましたが、代理店時代に最も多く目にしてきた失敗のパターンは「専門外のデザイナーに依頼してしまう」というものです。
よくあるのは「グラフィックデザインが得意なデザイナーにWebサイトのリニューアルを依頼したら、見た目は美しいがスマートフォン表示が崩れていた」「Webデザイナーに会社案内の冊子を依頼したら、印刷用の入稿データの設定が間違っていて、印刷後に色が全く変わってしまった」といったケースです。
依頼する側からすると「デザイナーなら何でもできるだろう」と思いがちです。しかし実際には、各ジャンルに固有の知識・経験・ツールの習熟が求められます。料理人に「フレンチもラーメンも同じ料理でしょ」と言えないのと同じです。
もちろん複数のジャンルを高いレベルで担えるデザイナーも存在します。しかしその見極めは、ポートフォリオを丁寧に確認するか、実際に小さな案件から試してみるしかありません。
外注で失敗しないための最短の方法は、依頼する制作物のジャンルに近い実績を持つデザイナーを選ぶことです。 「餅は餅屋」という言葉がデザインの世界ほど当てはまる仕事も、なかなかないと感じています。
まとめ
デザインのジャンルは、それぞれ異なる専門性・知識・思考プロセスを持っています。
- グラフィックデザイン: チラシ・ロゴなど静止画のビジュアルコミュニケーション全般
- エディトリアルデザイン: 雑誌・冊子・カタログなど複数ページにわたる誌面設計
- Webデザイン: Webサイトやバナー・LPなど画面表示に特化したデザイン
- UIデザイン: アプリ・Webサービスの操作インターフェース設計
外注をする際は「デザイナーなら何でもできる」という前提を一度外して、依頼したい制作物のジャンルに近い実績・経験を持つデザイナーを選ぶことが、クオリティの高い成果物を得るための最も重要なポイントです。
2014年から現場でデザインに関わってきた経験から言えることは、専門性の高いデザイナーに適切な案件を依頼したときの成果は、ジャンルが合っていないデザイナーへの依頼とは明らかに違います。「餅は餅屋」——この言葉を、デザイン外注の場面でもぜひ思い出してみてください。