「デザインを内製化すれば外注費を節約できる」「Canvaなどのツールを使えば社内でも作れる」こうした考えから、デザインの内製化を検討している企業は少なくありません。
確かに内製化にはメリットがあります。しかし実際に取り組んでみると、「思ったよりコストも手間もかかった」という声も多く聞かれます。ツール費・人件費・学習コストを合計すると、外注よりも割高になっているケースも珍しくありません。
この記事では、デザイン内製化にかかる費用と負担を正直に整理した上で、内製化が向いているケース・向いていないケースを解説します。
デザイン内製化に必要な3つのコスト
デザインを内製化する際にかかるコストは、大きく「ツール費」「人材コスト」「時間コスト」の3つに分けられます。
ツール・ソフトウェアの費用
デザインに使うソフトウェアの代表格はAdobe Creative Cloudです。IllustratorやPhotoshopを含むプランは、月額約5,000〜10,000円程度(プランにより異なる)の費用がかかります。複数名が使用する場合はその人数分の費用が発生します。
また、Canvaのようなブラウザベースのデザインツールは無料プランでも使えますが、ビジネス用途ではCanva for Teams(月額約1,500〜2,000円/人)が必要になるケースがほとんどです。
| ツール | 月額費用の目安 |
|---|---|
| Adobe Creative Cloud(個人) | 6,480円〜 |
| Adobe Creative Cloud(法人・1名) | 9,800円〜 |
| Canva for Teams(1名) | 1,500円〜 |
| Figma(プロフェッショナル) | 約1,800円/名 |
PC・環境構築費
ソフトウェア費用に加えて見落とされがちなのが、デザイン作業に耐えられるPCの環境構築費です。
Adobe IllustratorやPhotoshopは動作に一定のスペックが必要で、一般的なビジネス用の低スペックPCでは動作が重く、作業効率が大きく下がります。デザイン用途に最低限必要なスペックの目安は以下の通りです。
| 項目 | 最低限の目安 | 推奨スペック |
|---|---|---|
| CPU | Intel Core i5 / Apple M1以上 | Intel Core i7 / Apple M2以上 |
| メモリ(RAM) | 16GB以上 | 32GB以上 |
| ストレージ | SSD 512GB以上 | SSD 1TB以上 |
| ディスプレイ | フルHD(1920×1080)以上 | 4K対応・色域sRGB100%以上 |
特に印刷物の制作では色の正確な再現が重要なため、色域(カラーガマット)の広いディスプレイが求められます。一般的なオフィス用PCに搭載されているディスプレイでは色の再現精度が低く、印刷後の仕上がりと画面上の見え方が大きくズレることがあります。
デザイン用途に適したPCの価格帯は、MacBook ProやiMac(Apple Silicon搭載モデル)であれば20〜35万円程度、Windows機であれば15〜30万円程度が目安です。すでに社内にある低スペックのPCでは対応できない場合、この初期投資が必要になります。
また、大量の画像データや作業ファイルを扱う場合は外付けストレージ(1〜2万円程度)、色を正確に確認するためのカラーキャリブレーションツール(1〜5万円程度)なども必要になるケースがあります。
初期投資の目安(PC・周辺機器)
| 項目 | 費用目安 |
|---|---|
| デザイン用PC | 15万〜35万円 |
| 外付けストレージ | 1万〜3万円 |
| カラーキャリブレーター | 1万〜5万円 |
| 合計 | 17万〜43万円程度 |
これらは初期費用として一度かかるものですが、減価償却を考慮すると月換算で数千〜1万円以上のコストになります。
人材の確保・育成コスト
内製化で最も見落とされがちなコストが、人材の確保・育成にかかる費用と時間です。
社内スタッフが兼務する場合: デザインの専任ではないスタッフが制作を担当する場合、本来業務への影響が出ます。月給30万円のスタッフが月20時間をデザインに費やしている場合、それだけで約3万円分の人件費がデザイン制作に使われていることになります。さらに、デザインに不慣れなスタッフが時間をかけて作った制作物のクオリティが低い場合、ブランドへの悪影響というコストも発生します。
デザイナーを採用する場合: 専任のインハウスデザイナーを採用する場合、月給25〜40万円程度の人件費に加え、採用コスト・社会保険料・教育費用なども発生します。デザイン需要が十分にある企業でなければ、採用コストが外注費を大きく上回ることがあります。
時間コスト(機会損失)
デザインは慣れていないと思った以上に時間がかかる作業です。プロのデザイナーが1時間で仕上げるバナーに、非デザイナーの社員が半日かけることは珍しくありません。
この「デザインに使った時間」は、本来であれば営業・企画・顧客対応などの本来業務に充てられたはずの時間です。こうした機会損失は数字に表れにくいため見落とされがちですが、事業全体で考えると無視できないコストです。
「Canvaで十分」は本当か
近年、Canvaをはじめとする使いやすいデザインツールが普及し、「プロのソフトがなくてもデザインができる」という認識が広まっています。確かにCanvaは優れたツールであり、SNS投稿画像・簡単なチラシ・社内資料程度であれば十分に対応できます。
ただし、以下のような場面ではCanvaの限界を感じるケースが多くあります。
印刷物への対応が限定的 チラシ・名刺・ポスターを印刷会社に入稿する場合、CMYK・塗り足し・トンボなどの印刷特有の設定が必要です。Canvaはこれらの設定への対応が限定的で、印刷会社の入稿規定を満たせないケースがあります。
ブランドの一貫性を保つのが難しい テンプレートを流用して作成するCanvaのデザインは、使い続けるうちにトーンがばらつきやすくなります。ブランドの統一感を保つには、デザインの知識と意図的な設計が必要です。
クオリティの天井が低い Canvaのテンプレートを使ったデザインは、「Canvaで作ったもの」という印象を与えやすく、競合他社と差別化しにくい場合があります。特に顧客への提案資料・採用向け制作物・高価格帯商品の販促物など、クオリティが信頼性に直結する場面では限界を感じやすいです。
内製化が向いているケース
以下のような状況では、内製化が合理的な選択になります。
- 社内にデザイン経験者・専任デザイナーがすでにいる
- SNS投稿・社内資料など、外部に見せない・クオリティの優先度が低い制作物が中心
- デザインの需要が非常に多く、専任デザイナーを雇用しても採算が取れる規模
- ブランドへの深い理解が必要で、外部に委ねにくい機密性の高い制作物
内製化が向いていないケース
以下のような状況では、内製化よりも外注の方が合理的なケースが多いです。
- 社内にデザイン専任者がおらず、兼務で対応している
- 顧客・取引先に見せる制作物(バナー・LP・チラシ・名刺など)のクオリティを上げたい
- デザインに使っている社員の時間を、本来業務に充てたい
- 制作物の種類・量が多く、社内リソースでは対応しきれない
- ブランドの統一感・プロフェッショナルな印象を重視したい
内製化・外注・サブスクのコストを比較する
実際のコストを比べてみましょう。月にバナー4枚・SNS画像8枚・チラシ1枚を制作するケースを想定します。
| 方法 | 月額コストの目安 | 主な内訳 |
|---|---|---|
| 社員兼務(内製) | 3万〜8万円相当 | 人件費(時間換算)+ツール費 |
| インハウスデザイナー採用 | 30万〜45万円以上 | 人件費+採用費(月割)+ツール費 |
| 都度外注 | 5万〜20万円 | 制作物ごとの外注費 |
| 定額デザインサービス | 8万〜15万円 | 月額料金 |
社員の兼務による内製は一見コストが低く見えますが、人件費を時間換算すると実際には割高になるケースが多いことが分かります。また、クオリティの低さによるブランドへの悪影響や機会損失は、この表には現れていません。
自社に合った選択肢を見つけるには
内製化・外注・サブスクのどれが自社に合っているかは、以下の観点で判断することをおすすめします。
月間の制作量はどのくらいか 制作物が少ない場合は都度外注、多い場合はサブスクや専任採用の方がコスト効率が高くなります。
どの制作物を重視するか 顧客の目に触れる制作物と社内向け資料で、必要なクオリティは異なります。顧客向けはプロに任せ、社内向けは内製で対応するという使い分けも有効です。
現在のデザイン業務に何時間かかっているか 社内スタッフがデザインに使っている時間を計算してみましょう。その時間を本来業務に充てた場合の価値と、外注費を比較することで、費用対効果が見えてきます。
まとめ
デザインの内製化は「外注費が不要になる」という点では魅力的に見えますが、ツール費・人件費・時間コストを合算すると、外注よりも割高になるケースが少なくありません。
- ツール費: Adobe CCやCanva for Teamsなど、月数千〜1万円程度
- 人件費: 兼務の場合は時間換算で月3万〜8万円相当の隠れたコストが発生
- 時間コスト: 本来業務への影響・機会損失は数字に表れにくいが無視できない
内製化が合理的なのは「社内にデザイン経験者がいる」「社内向け制作物が中心」「制作量が多く専任採用が採算に合う」場合に限られます。顧客の目に触れる制作物・ブランドの統一感・本来業務への集中を重視するなら、外注や定額サービスの活用を検討することをおすすめします。